小学生の頃の話

僕が小学生の時の話だ。


愛犬のジョンは僕の唯一の友達だった。
ジョンと僕は毎日遊んだ。

生きてきた中で一番に輝いていた太陽の下、
どこまでも続く田んぼ沿いのあぜ道を僕達は駆け抜けた。
吹き抜ける風、草花の匂い、額に流れる汗。

「疲れたね」僕はジョンに言う。

「あぁ。しかし爽やかだ。」ジョンは僕に言う。

僕はジョンから多くの事を教わった。
善と悪の事。正義の事。
自然科学や哲学。斉次線形微分方程式一般解の事。ご家庭でのおいしいカレーの作り方。

ジョンも僕に多くの事を話すのを楽しんでいた。
古くからの慣わし。民族間の紛争。
32次元超弦とカルツァクライン理論。非常時に於けるおいしいカレーの作り方。

数え切れない程の思い出を、僕はジョンと共有した。
数える必要の無い確かな思いを、僕はジョンと共有した。
ジョンとの過ごす日々は、僕の大切なものであった。

小さかった僕は何時も泣いていた。

「強くなりたい。」僕はジョンにそう言った。

「強き者とは自分の中にある正しさを決して折らない者の事だよ。」とジョンは言った。

それから5年後、僕は剣を取り、魔王の城へと続く冒険の道へ踏み出したのだ。
幾重にも張り巡らされた試練の数々。人々の悲鳴と魔物との戦い。
仲間と助け合い、失われた命の為に、僕達は剣を振るった。
長き戦争は終わり、人々の戦いは報われ世界に平和が訪れた。

そうして僕はこの大学へ入学した訳だ。

 

坂之上拾イ絵