頭部に掌底を打ち込む。間髪いれず腹部を殴打する。軸足を蹴り上げ殴る。殴る。殴る。転倒したその身体目掛け兎に角踏み付けた。
「やっ…たか…?」
立ち込める砂煙の中から、その巨体は軽々と己の身体を立ち起こした。
「なん…だと…」
「もう無理です!逃げましょう!早く!」
--話は2時間前に遡る。
私達は鍋を囲んでいた。
家政学と占術を統合為る可くして生み出された画期的な理論の下、各々が指示された具材を持ち寄った。
或る者はかく語った。
「嫌な予感がします。辞めましょうよ。」
また別の者もこう語った。
「え。いいんじゃない。面白そうだし。」
とある者は「食べれますよ。あはははは。」と己の力に確信をしていた。
そう、私達は世界の常識を覆すかの様な革新を、その煮えたぎる黒き器の中に見たのだ。
材料は、かの竹取の姫君を思い起こさせる様な非凡で斬新な、占術的食材であった。
それは、ラミエルで出来た植木鉢、ピカチュウの皮衣、ドラえもんの尻尾の先の玉、ウルトラマンの産んだバルタン星人、等であった。
私達はこの無理難題を占術部門の基本技能である超次元移動術やワールドパラダイムシフトなどを用いて、死に物狂いで解き明かし集めて来たのだ。
そうして食材を調理し(家政学班が一晩でやってくれました。)、鍋の中に詰め込み、部員達で食卓を囲んだのだ。
そこからの記憶は点々と、曖昧なものしか残っていない。
占術部門長が、六芒星を描くかの如き鍋奉行の箸捌きを披露したその瞬間、それは起こったのだ。
その一瞬、凝縮されたその無限とも思えるかの意識の中で、幾人かと部門長は部屋の空気の異常な重圧を感じた。
「ふふ。僕でなければ見逃しちゃうね。」
そう言い終わるかしないかの刹那の合間に、部門長の姿は鍋の中に消えた。
「くそっ!なんだこれは!!!」
私は鍋から飛び退き皆の様子を確認した。
「かゆ…うま…かゆ…うま…かゆ…」
そこには正気を失った会計の姿があった。
私は身体の震えを抑えながら鍋に目を向けた。
そこには、この世の禍々しさの権化とも言える様な、不気味な何かが渦を巻いて私達の方を見ていた。私は戦慄した。
いや、その場に居た誰もが、この世界は死が支配しているのだと思い出した。
そう鍋の中に居たのは、先代副部長だった。
「先代副部長は、その圧倒的破壊力から、部の半分以上の勢力を持って封印が行われた。それがなぜ今ここにいる…!」
「わからない…!しかしやるしか生き延びる道はない!」
私達は持てる力を全て使い、その魔神に立ち向かった。
しかし、圧倒的な力の前に、私達はなす術がなかった。
「だ、だめだ。逃げるしかない…!」
「会計…!」
「だめだ!諦めろ!」
ーー私達は逃げた。生き延びる為に、生き残る為に逃げた。
そうしてこの部活が存続してきた訳です。
Saca Nowe Hiroea
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先代副部長 (金曜日, 24 5月 2013 17:55)
みつけた
十薬庵 (日曜日, 26 5月 2013 02:22)
占術とは何だったのか。