漬物石は電子ディストピアの夢を見るか

さんねんにくみ　さかのうえひろいえ

　もうじきてすともおわり　なつやすみがはじまります

湧いては漲り冷えては沈む情熱が一糸を辿り心根に注げば来る夏休は直ぐ傍

つまりは一夜漬を越えたその先にユートピアが待っている

二ヶ月ばかりの楽園の入り口で列を成して今か今かと焦れて居る

場合に因ってはディストピアで心身休まる暇も島も無い

それは成績表でもって、若しくは学費の都合でもって平穏を掻き乱される故

思考の上にそれらを並べて理性と談判を持ちかけても、

期末試験を終わらせるべく教科書と帳面に顔を見合わせる他の企てなどない

右を見ようが左を見ようがひっくり返して見ても期末試験である

茶色の彩紋の上にそれらを並べて、こうでもないああでもない、と唸りながら、

短針と長針との成す角を取り巻く物理か哲学かの原理にげんなりする

木目調の机上には纏まらない思案の様相を体言するかの如くの煩雑ぶりを展開して、

 

嗚呼、これがタブララサか……

 

と居眠りで草書の一つも無い紙面に現状を重ね見た

そうこうしているうちに期末試験は鼻の先まで迫って来ていたのだ

 

　漬物石に成る夢を見た

誰にも気にされず、我が身も自身も意識に留めず

黙してぽつねん朽ちていく無機物の寡石<やもいし>

珪素と燐とカーボンとその他諸々で縮緬の如く体形を成して、

風雨霹靂無常無心の中で歳を重ねていく

そうして何時迄も凝っとしている

 

　ぼーっとしたまま目を覚ました

完璧無尽現実からの逃避を夢中に見たことを悟り、

その合間にも例の短長針の原理は壁に磔で机上の不変性と時間の不可遡性を知らしめてくる

 

まぁなんとかなるだろう……

 

僕は電子漬物石の電源を押して電脳世界へ飛び立った