でも…

私も彼もまだ…だったころのお話です。

 

彼の傍らにはいつも犬がいました。彼はその犬を愛でることもなく疎むこともなく、ただそこに居ました。ある日不思議なことが起こりました。犬が「Ai, Ai, Ai….」とものを語るのです。「愛? 藍? 哀?」彼にはさっぱり意味が分かりません。よくわからなかった彼は取りあえずその犬に‘らぶ’と名前をつけ、傍においたらしいのです。

 

彼はなかなかの思想家でした。一方で彼はそれをあまり口にはしませんでした。かれ はいつも高尚な理想を持っていました。一方で かれ の理想について来る者はありませんでした。彼 の内心をどうして私が知っているのかはひみつです。

 

彼は珍しくこんなことを口にしました。「私の‘存在’は、常に私の存在以外のもので作られている気がする。どの存在が欠けても私は私ではなくなるし、また、どの存在を抽出しても私を私として体現するに事足りる。」私はその時彼を馬鹿だと思っていた事をここに告白します。

 

かれ は らぶ をこう評価していました。「らぶ は愛(Ai)を語る犬だ。これは私にも出来ない事である。」

 

ある日 かれ は何の前触れもなく得意げに犬を抱きかかえては私に言うのです。「どうだ、素晴らしいだろうこの犬は。君は私と何か同じにおいがする。やはり君も、私と同じで愛を語る動物が好きなんだろう」と。私は答えました。「まあね。でも、パンかチョコレートかと問われれば、やっぱり僕はまだ純粋な方かな、それで身を亡ぼしても後悔はしないよ。」

 

その後、かれ と私は別々の道を歩むことになりました。時間が彼を運び、また、闇が かれ を包むことでしょう。かれとらぶがその後どうなったのかは知りたくもありません。

 

ところで余談なんですが、どうも‘らぶ’という犬は英語圏で生まれ育った犬らしいです。八百屋のおばさんが噂好きで、私に教えてくれたんです。

 

あきれてものも言えません。

 

                                     

                                     私

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コメント: 6
  • #1

    砂時計 (水曜日, 14 5月 2014 17:55)

    私と彼って誰なんでしょう?

    自分の知ってる人なのかなあ。

  • #2

    (木曜日, 15 5月 2014 02:32)

    これは フィクションと皮肉と価値観の出来損ないです。

    あなたも知っている人でしょう。

    この5つの登場人物は、私を苦しめるのです。

  • #3

    砂時計 (金曜日, 16 5月 2014 12:15)

    とても深いお話でしたね。

  • #4

    (金曜日, 16 5月 2014 12:34)

    ええ、とてもふかいですとも…

  • #5

    (日曜日, 18 5月 2014 23:57)

    勘違いと自己主張は身を滅ぼします。

  • #6

    砂時計 (月曜日, 19 5月 2014 01:02)

    なんかすみませんでした。