ヒトデ言葉

この項では、我々の独断と偏見でヒトデにヒトデ言葉を与えていこうと思います。意中のあの人に想いを伝えるときや大切なあの人に感謝の気持ちを伝えるとき、人生に疲れた時などにご利用ください。

 

えっ? 由来が意味不明? そっ、そんなハズは ありませんよ。きっと… 多分…。

 

*海星言葉が明らかなマイナスイメージの場合もありますが、それは私が必ずしもその種を嫌っていることを意味しません。ヒトデという括りの中でこの種が一番、この種が二番といったような差こそあれ、嫌いなものは一例もありません。全てのヒトデを愛しています。

イトマキヒトデ 「新たな出会い」

・イトマキヒトデ Asterina pectinifera  -  新たな出合い

由来;そもそも、ヒトデという生き物はさほど注目こそされないが、印象にはよく残る。陸水に存在しないこともあり、まさに海を連想するにあたり必要不可欠(?)な存在である。その中にあってイトマキヒトデは、水深の浅いところでも生息でき、日本中様々な所で観察できる相当ポピュラーな種である。また、主として紺色或は紫色の地にオレンジ色の斑点を伴うといったカラーリングが多いため、目にも良く留まる。つまり、日本であれば海の玄関口、どこでも見かけるということだ。

初めに断ったが、この海星言葉は自身の偏見に依拠するところが大きい。そして、私にとって海のイメージはヒトデによって強く印象付けられ、そのヒトデのイメージの中で最も一般的なのがこのイトマキヒトデである。よって、‘海’というゆりかごに住まう無数の命に新たに出会うそのスタートには、いつも彼らの姿がある。(何せ、海に入ってまず見かけるヒトデが本種ですから…)

マンジュウヒトデ 「戒め」

・マンジュウヒトデ Culcita novaeguineae - 戒め

由来;丸くて大きなマンジュウヒトデ。おまんじゅうのようなヒトデです。たぶんですけど、南のほうにある某水族館ではタッチプールの中にいたりして、一般的にも受け入れられやすいヒトデなんだと思います。私はヒトデの中ではあまりこの属が好きではありませんが...。そんな彼らも ちっちゃい時は星型をしてるんです。座布団みたいな形です。よくビスケットスターなどとも呼ばれます。折角ヒトデとして生まれてきたのに、何で丸いんですか? 丸いのはウニで十分だと思います。若いときはスリムでも大きくなると豊満な体つきになる…。何かに似ているような気がするんですよね。誰がとは言いませんが、きっと日ごろの不摂生が祟った結果がこの体なのでしょう。影ではサンゴを餌としながら、オニヒトデに悪役の座を押し付けていたりもします。

 

こんな大人にはなりたくないものです。

ヒラモミジガイ 「純真無垢」

・ヒラモミジガイAstropecten latespinosus - 純真無垢

由来;

日を浴び暖か砂浜に、誰かが忘れた黄色いバケツ。

寄せては引いてく波間には、誰の足跡残らない。

きらめき揺れる水面から、飛び跳ねる魚はしぶきのように。

そしてその下 はしゃぐのは 綺麗な星型ヒラモミジ

私たちは いつ‘それ’を捨ててしまったのでしょうか?

ヒラモミジは実に可愛らしいヒトデです。かなり浅いところにも居て、泳いでいると何故だか彼ら自ら砂から出て来ます。水槽中では、壁をしっかり上ることも出来ないくせに途中まで這い上がり、ポテッ と落ちるのです。しかし彼らは他のモミジより若干弱い気がします。大切な‘それ’は脆く弱々しいものであるに違いありません。

 

用例;

クリスマスを明日に控えた翔太君(自称6歳)。クリスマスプレゼントには一体何が欲しいのかな? どうやら、さんたサンには超ハイスペックPCをお願いしたようです。サンタクロースが来るのを待てない翔太君、来るまで起きていることにしました。そこにお母さんがやって来て「まだ起きてるの? 早く寝なさい。」怒られてしまいました。でもやっぱり諦めきれない翔太君、部屋の電気を消して、空想画面世界のおともだちと一緒にショットガンを打ち鳴らします。

何時間かたったある時、窓からあかるい光が差し込み、赤い服と帽子を身に着け、白いおひげを生やした変なおじさんが目の前に姿を見せました。おじさんはなにも言わず小さな箱を手渡すと再び光の中に消えていきました。

その日の正午、翔太君が目を覚ますと、枕の横には小さな箱が…。開けてみるとそこには…。ヒラモミジガイが入っていたそうです。めでたし、めでたし。

 

この様に、現実世界に打ちのめされて非現実にのみ心を委ね、大切な物を失ったことに気付いていない人、或は、馬鹿がつく程正直かつ純粋な人に忠告・敬意を込めて贈りたい。そんな言葉ではないでしょうか?

 

 

 

 

 

オニヒトデ 「私を見て」

・オニヒトデ Acanthaster planci  - 私を見て

由来;嘗て彼らは、豊かなサンゴ礁に住まう住民の一つでしかなかった。その姿はきっと、生態系を危機に陥れるような破壊者では無かったろうし、静かな愛すべき一つの命にすぎなかったのだろう。しかしながら、今、彼らの引き起こしている惨状は事実であって、それがために彼らは人に憎まれ、その手によって非業の死を遂げざるを得ない。何が彼らをそのように変えてしまったのだろうか? 私は何も、彼らの命を奪おうとする人々を恨みはしないし、同時に、彼ら(オニヒトデ)に失望してもいない。お互いに生きるために、命を守るために仕方のないことだから…。そして、私は彼らの行動を、姿を、生命を愛している。

ところで、私が彼らに独断と偏見でこの様な言葉をあてがった理由は、彼らの現状と容姿、そして人体に害を及ぼすほどの毒を持つという事実にある。私にはそれらが、まるで、一途に何かを思って身を焦がし、それが叶わぬが故に、また、思いが強すぎるが為に、歪んでしまった弱い心に見えたのである。そして、そんな心は時として‘毒’を持つのではないか…。

では、なぜ「私を見て」という言葉を与えたのか。初めはそのまま「歪んだ心」的な言葉にしようかと思った。また、‘大量発生’、‘生態系の破壊’、‘危険生物’といったメッセージ性の高いキーワードを数多持っているため、「警告」的な言葉にしようとも思った。ただ、そんなに安易に決めてしまってはおもしろくない。どうせなら無機質な単語ではなく、訴えかけるかのような口調にしてみようと考えた。暫く考え込んだ末にふと思いついたのが、この言葉であった。

 

用例;

19XX年 某日 全米を震撼させる前代未聞の事件が起きた。事の発端はニュースウェット州のとあるハイスクールであった。

学校では大抵控えめなシンディー。彼女は講義でいつも一緒になるボブに密かな恋心を抱いていた。シンディーにとってはこれが初めての恋、しかし、彼女は自分の容姿に自信が無く、常に友人と一緒にいるボブに言葉を伝えられずにいた。そこで彼女が初めに取った行動、それはボブがやっているフェイスブック・ブログ等を調べ、その文面から彼の住所を特定する事であった。更にボブの友人やそのまた友人を当たり、電話番号・メールアドレスを聞き出した。その後の彼女の行動は正に異常であり、毎日数十件の迷惑メールや無言電話をかけ、彼が番号を変更すると、一方的に裏切られたと感じた彼女は毎日彼の家の前に立つようになった。彼は困り地元警察に連絡したが取り合ってもらえず、裏口から家を出て学校に通うようになった。シンディーからしてみればこれらは全て彼への思いが故であり、決していやがらせでは無かったが、何時までも自分に振り向いてくれない彼に苛立ち、つい道端に落ちていたオニヒトデ達を空いていた窓に投げ込んだ。

流石にこの狂行には公安も動かないわけにはいかず、シンディーは御用となった。

 

この「私を見て」は、恋人同士が語り合うかのような甘く純粋な物ではない。もっと、褶曲していて、一癖も二癖もある、そして闇を孕んでいるようなそんなイメージを持ってほしい。

 

*これは完全なフィクションです。ここに挙げられる固有名詞は実際のものと一切関係ありません。

*また、オニヒトデを許可なく窓に投げ込む行為は極めて危険な行為であり、法律で禁止されています。決してマネしないでください。

 

ヒメヒトデ 「楽しかったあの頃」

・ヒメヒトデHenricia nipponica - 楽しかったあの頃

由来;人は変化していく。歳をとったり、性格が変わったり、価値観が変わったり。そして、未来に足を踏み入れそれが現在と変わるたびに、過去は薄らいでゆく。私も今は若い。「この文章を読んでいる変わり者さんはお若いですか?」別にその答えに興味は無い…。ただ、私もいつかは年を取る。そして、過去の多くを忘却の彼方へと置き去りにしてしまうのかもしれない。今ある悪夢も幸せも、私を生かしていてくれる全ては思い出だけを残して去ってしまう。私はそれが悲しい。変化が怖い。そう思うのは私が未熟だからだろうか?

私は大人になっても小さいままの、この永遠の‘お姫様’を見ながら、なんとなく懐かしい気持ちになるのであった。

 

アオヒトデ 「失恋」「喪失」

 

・アオヒトデ Linckia laevigata - 失恋・喪失

由来;アオヒトデは名前のとおり基本的に体が青いです。だからアオヒトデなのでしょう。青、英語でBlueBlueな気持ちとはよく使われる表現ですが、どんな時にあなたはBlueな気持ちになりますか? 失恋した・大事なものをなくした・仕事でミスをした・テストで赤点とった(赤いのに青くなるんですね)......。いろいろあるでしょう。気をつけていても勿論それらは降りかかってくるのかもしれませんが、油断しているときはなおさらです。暖かいさんご礁で鮮やかな青を放つアオヒトデはきっと、落ち込むあなたの肩をたたいて慰めてくれるはずです。

 

用例;

田中邦人41歳♂。今は郊外のマンションで一人暮らし。そんな彼にも昔は一緒に暮らしてくれる人がいた。ではなぜ今彼は一人なのだろうか? その問いに対する正解を知る者など誰もいない。それどころか、恐らく彼の存在を知る者など玄関から3つ先の交差点に店を構える花屋の店員とバイト先の店長くらいのものだ。彼の目には毎日が全くなんの変わりもないようなものに映っていた。仕事終わりに歩く道もなんと言うか白黒の世界で、ところどころ道を照らす街灯の光は、彼の寂寥に満ちた姿を浮き彫りにした。そんな非情な街灯ですら時々電球が切れ掛かっている有様である。彼は戸を開け、手荷物を無造作に机に放った。彼がちらと見るのは本棚の上から静かにこちらを見下ろすアオヒトデの骨格標本、その色は白くもはや青くはない。あれは20年前のことだった…。買ったのは那覇の土産物屋だっただろうか…。彼の手は二本目の缶ビールに伸びていた。標本は相変わらず彼を見下ろしている。邦人は徐々に消化管の内壁を這いずるかの様にしてこみ上げてくる何者かの存在を感じた。しかしその何かが登りきることはなく、代わりに小さなため息だけが彼の口からこぼれた。なにも驚くことはなかった、いつものことである。彼が缶に口をつけ、傾けるもそこには何もない。逃避を続ける安息の旅もどうやらここまでのようだ。どうも、彼の中で止まってしまっていた時計はある意味では動いていたようだがしかし、気付くのが遅すぎたようである。或いは、全く気づいていなかったのかもしれない。彼の魂は、部屋の隅でしおれている惨めな花束と無口なヒトデをのこして闇の中に消えた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カワテブクロ 「実用的」「使い捨て」

・カワテブクロChoriaster granulatus - 実用的・使い捨て

 

由来;ヒトデ、それは人間にとって実に用途を見出せない生き物の一つである。基本食べることは出来ないし、肥料にもならないそうだ。

革手袋、それは人間の手を守ってくれる実に便利な物である。基本食べることは出来ないし、多分肥料にもならないが、なんかしらの雑務の役には立つ。

カワテブクロ、それは…変なヒトデである。

由来は簡単。名前から。それに、見た感じがなんとなく‘実用的’である。後者の言葉に関しては革手袋ではなく、むしろ軍手に相応しい言葉であるし、そもそもヒトデは実用的でなく、本種はなおさらである。しかし、名前と言葉が一部矛盾するのもたまにはいいかなと思ったが故の決断である。

ところで、革手袋ってどんなところで使われているのでしょう?

 

用例;

化粧品会社に勤める社員の澤田 栄太郎さん(仮称)35歳。彼は商品開発部に配属されており、家庭を支える主婦向けの化粧品開発を任されている。今日 彼は一つの商品を上司に提案しようとしていた。…いざ澤田が上司に提出した企画書、そこには「アマゾンでスコールにうたれても大丈夫! 絶対に落ちない新感覚ファンデーション。 ヤマビルが嫌うハーブも配合。これであなたもサバイバー!」とあった。これを見た上司は何も語らず、おもむろにデスクから何かを取り出し、澤田に渡した。それは、カワテブクロであった。

その様子を見ていた貴方は同情と軽蔑の目で彼を見、彼を再び見ることは無いだろうことを悟る。

翌日、社員名簿の中に彼の名前は無かった。

彼は正に、使い捨てにされたのである。

 

 

 

Protoreaster lincki 「情熱」「夢中」

Protoreaster lincki - 情熱・夢中

由来 ; この種はコブヒトデの仲間であり、反口側に顕著な隆起を有している。生きている個体であれば、その多くの場合、隆起若しくは腕の末端の色が燃えるような赤色である。ペットショップなどでは、コブヒトデに似ているけれども少し異なるような個体を全てコブヒトデモドキとしてしまう傾向があるが、それは間違いである。「ヒトデガイドブック」においてはコブヒトデモドキとはPentaceraster alveolatusのことを指す和名であって、本種とは属名すら異なる種である。…ところで由来だが、これは偏に見た目に依拠するところが大きい。先述の通り、彼らの背中には燃えるような赤色をした複数の突起を備えているのである。その姿はまるで燃え盛る炎のごとしである。この容姿にピタリと当てはまる言葉として妥当なのは恐らくこれらの言葉であろう。

(赤いこぶ→炎→情熱→夢中)…安易だなあ。

Nidorellia armata 「つよがり」

・Nidrellia armata - つよがり

用例 ; 新幹線の窓からのぞく、感傷的に染まりつつある町並みを眼下に見渡せば、そこに浮かぶは君と僕の素晴らしき日々だった。

僕は君のことを考えない。君に会いにも行かない。君という景色はもう遠く後ろに去っていったものだから。僕はさよならも言わずに去っていった君のためにうつむくことなど少しもない。これが私のNidrellia。確かに、君と僕の思い出は小さくて、短くて、些細な時間だったのかもしれない。けど、本当は僕と君とはずっと一緒にある。僕の身がなくなるまで。たとえ君が僕を忘れても、僕の中に君は根付いている。君無しの僕はもう自分ではない。

ふと、大きな空に目をやれば、一面に広がる雲の群は既に情熱的な色を失っていた。その姿は、私たちの思い出を嘲笑うかのような、私を恨むかのような、そして、寂しげな佇まいであった。

コブヒトデ 「忘れない」

・コブヒトデ Protoreaster nodosus - 忘れない

由来;コブの数は思い出の数。コブの大きさは想いの深さ。でこぼこ いびつなあなたの心は、いつも何かに支えられてる。あなたの心がどんなであるか私は知らないけれど、きっとそう。コブのないところは滑らかに見えるコブヒトデ。本当は小顆粒で少しざらざら。一度だって無いよきっと、ほんとうに何の意味もないことなんて。忘れないでほしい、何かによって波打ったあなたの平穏を。小さくても大きくても。その集合があなたなのだから。私も忘れない。この海星言葉の由来は―、忘れた。

コブヒトデモドキ 「忘れないで」

・コブヒトデモドキ Pentaceraster alveolatus - 忘れないで

由来;コブの数は多いのかな、いや、少ないのかな? コブの大きさは小さかったっけ?

でこぼこ いびつそうなあなたの心は、たまに何かに支えられてると思う、多分。あなたの心がどんなであるか私は知らないけれど、恐らくそう。コブのないところは滑らかに見えるコブヒトデモドキ。本当は小顆粒で少しざらざら。そんなに無かったと思うよ、特に意味も無さげなことなんて。忘れないほうがいいんじゃないかな、何かによって波打たれそうになったあなたの平穏を。小さくても大きくても、いや多分小さいかそれ以下。あなたの内の少しくらいはその集合だから。私は忘れた。そう、やっぱりこの海星言葉の由来も、忘れた。

ニチリンヒトデ 「欲望」

・ニチリンヒトデ Solaster paxillatus - 欲望

由来;古来から人の手というものは様々なモノを作り出してきた。そこには金槌や鉛筆のような実用品はもちろん、絵画や文字といった芸術品も含まれる。人の手こそが我々の社会の多くを作り出し、そして、壊してきた実体である。人の手は人間の社会において輝かしい功績を果たしてきたことは言うまでもないことだろうし、また数々の悲劇を繰り広げてきたことも忘れてはならない現実である。現に人はその手を硬く握り締めて人を殴るし、その手で武器を作り誰かを傷つける。よって、私はこの ‘手’ という効果器に対して特別に思いを持ったりする。それが冒頭にもある「欲望」の二文字である。欲望という言葉はしばしば悪いイメージをもって使われることが多いが、私は必ずしもそうではないだろうと思う。例えば、医者が人の命を救おうと努力する時に「この人を助けたい」と考える ‘欲’ は人間社会一般的に考えて悪であるとされるだろうか?(善悪・一般とは何かという議論、或いは当人が死を望んでいる可能性などはここではないものとする。どうしても論じたいのであらば他でお願いいたします。)芸術や文明だってそうである。より便利な生活、より強い国家、より美しい作品、人を感動させたいという気持ち…。これらは全て ‘欲望’ に他ならない。人間が手をもって火を起こし他の生き物を駆逐してまで勝ち得た現在の生活は、人の手を照らすスポットライトによって生じる光と影によってはじめて約束される。

 

さて、世界広しと言えど、ここまで人間の ‘欲望’ を形態的(morphological)にも生態的(ecological)にも表現・具現化したような生命体が他に存在するであろうか(こんな生き物があるじゃないかという意見があったらごめんなさい、私の目にはもう海星しか映らない…)。彼らは人間の欲望の象徴である(と私が考える)人の手に形がそっくりではあるまいか! 私が日ごろ手を見ればそれは全て海星に見える…(さすがに嘘です)。更に、なんといってもその尽きることなき食欲である。他の生物はおろかヒトデすら喰う、生きていても死んでいても、動いていても動かなくても何でも食らう。私たち人間にもその点については思い当たる節がある。ここまで欲望に素直な彼らをみていると、もはや微笑ましく思えてしまうのは私だけだろうか。

 

ここまできてやっとニチリンヒトデ、筆者もそろそろ手が痛い。ニチリンヒトデは種にもその個体にもよるが腕数を数えるところにStarの面影はない。5腕ですら十分に欲望のままに生きてくれるのに、それが9本、10本...を数えるようになったらまるでそれは欲望の塊、欲望の鬼である。しかも基本的なヒトデの大食漢に加え、好むものは他種の棘皮動物である(そこにヒトデが含まれることは言うまでもない)。こんなにも魅力的な種が、同じヒトデを食べる裏切り者であるというところが私を複雑な思いにさせ、同時に私の中に渦巻く矛盾と葛藤が私の歪んだ興味を引きずり出す。同じことがスナヒトデ類にも若干言えることなのだが、ここでは割愛。

 

 

 

エゾニチリンヒトデ 「危険な魅惑」

・エゾニチリンヒトデ Solaster dawsoni - 危険な魅惑

由来;すらりとした細長い腕、その小柱体に覆われた腕は反口側で少し丸みを帯び、時におしゃれな腕輪のようなストライプを有する。腕の数にはばらつきがあるが、大体10本くらい。哀れな男達はその魅惑的なボディーに魅了され、思わず唾を呑む。この種は見る者の目をくぎ付けにし、心を掴んで離さない。その余りに神秘的な姿と香りは他のヒトデに生命の危機を感じさせる。その美しい腕に抱きかかえられたら最後、人生を諦めるより仕方は無いであろう。

 

もし私がキヒトデだったなら、きっと今頃彼女の胃の中にあるに違いない…。

 

*本種は雌雄異体です。

Solaster stimpsoni 「妖艶な笑み」

Solaster stimpsoni - 妖艶な笑み

Solaster hexactis 「自己欺瞞」「偽善」

Solaster hexactis - 自己欺瞞

由来;本種は6腕であるため、いくらかある他の近縁種と混同されることは恐らく無い。知られている全てのSolasterは7(通常8)から15腕であるからだ。間違われることがあるとすれば、それはEchinasteridaeのHenricia属に類する種であろう(Clark et al, 2011 )。なぜHenricia即ちヒメヒトデ属と間違う可能性が存在するのか? それは彼らが保育を行う種だからである。

 

腕数が少なく、保育を行う…。らしくない…。何と表現したらいいだろう。なんというか、こう...、ーとにかく私が一方的に持ってきたニチリンヒトデのイメージから逸脱している。艶やかに舞い怪しくしなやかな腕で相手を陥れる魔性のヒトデ、それが私の求める理想のニチリンヒトデ像である。本種のように、家庭的なしっかり者お母さんキャラクターなど求めちゃいない。このままではそのうちスーパーのつめ放題コーナーでキュウリ(Sea cucumber)を目一杯詰め込んで帰ってきそうだ…。きっと何か裏があるに違いない。そんなおとなしく収まっているはずがない。…もしや偽善か? 自分が本当は魔性のヒトデであることを知りながら、何か打算があって好印象を持たせるような行為をしているのではあるまいか? んっ? でも待てよ…。もしかしたらその逆かもしれない。彼らの本性は寧ろ優しきヒトデなのかもしれない。しかし、なんかしらの事情があって、本心を欺いて悪びれた自分を正当化しているだけなのかもしれない。

 

 

ヤツデヒトデ 「再生」「向上」

・ヤツデヒトデ Coscinasterias acutispina - 再生・向上

由来;ヤツデヒトデは再生能力がたかいからです。

折角再生したのでしたら、より良いものを目指しましょう!

Don't give up!

 

(注意;二個体に分裂して個体数を増やしても遺伝的には同一なため、生物学的には決して向上はしていません)

 

用例;Aさん エゾニチリンヒトデ

   Bさん Protoreaster lincki

   Aさん→Bさん カワテブクロ

   Bさん アオヒトデ

   あなた→Bさん イトマキヒトデ・ヤツデヒトデ

 

海星で語れる人間模様、意味はあなたの判断にお任せします。

 

 

ユルヒトデ 「至福のひと時」「後悔を君に捧ぐ」

・ユルヒトデ Lysastrosoma anthosticta - 至福のひと時・後悔を君に捧ぐ

 

由来 ; 頑張っても一日、うぬぼれても一日、悔いても一日、ただ寝ていても一日。

 

それなら……、 寝ていようか…。   

 

ユルヒトデは私個人的に結構好きな種類です。だから海星言葉をつけるのに迷ってしまいました。ユルヒトデは骨格の結合と発達が悪いため、柔らかいです。ユルいのは彼らだけではありません。私達だって時には(人によってはいつも)同じでしょう。由来はそんなところです。説明もユルいです。

 

至福に浸る時間。人はその為に生きているのではないでしょうか? でも何かを求めて頑張ることは、考えることは、情動に身をゆすることは、疲れます。きっと、一歩外に出れば楽しいことがそこらじゅうに転がっているんだと思います。でも、何も考えなくてもいい、或は、自分を何者にでも変身させられる夢の世界ってやっぱり…、そこにいつまでも居たいなんて思っていられるうちはきっとまだ、幸せなんですよね。珍しくそんな事を考えようとしているうちに眠くなってしまうのが玉に瑕です。

その後に残るのは、当然…。それを何故「君に」ささげなくてはならないのかは私の知るところではありません。

用例1;

高鳴る鼓動を見透かせまいと抑えながら、鼻歌高らかに歩む道。章太郎は今、道を歩む喜びを噛み締めていた。岸に寄せる波は日の光を浴びてはきらめき、揺れる海藻は微笑ましく彼に手をふった。数ヶ月前まで荒れ狂っていた海の装いはもはや遥か昔、遠い昔の出来事のようである。カモメは歌い、魚が遊ぶ。目にはいるものはすべて、生を謳歌しているようだった。

 

ある時章太郎は、砂浜にうち上がった奇妙な星を認めた。その星は彼にその真実を確めさせるには余りに地味であった。彼はきっと、夜空に輝く判然としない星達を君と一緒に眺めるほうが素晴らしいとでも考えたのだろう。砂浜に横たわるその小さな星は彼をその場に10秒も引き留めることはなかった。光を失った星は何を思うのだろうか? 章太郎を取り巻く全ては、彼を除いて、その星の思いを受け入れた。章太郎と星の運命的な一瞬の出逢いが、彼の記憶から消えていくのは時間の問題であろう。彼は鼻歌を響かせながら陽気の流れるがままに消えていった。

 

彼は未だ知らないのである。いや、知ることは未来永劫にないのである。その星がユルヒトデであったことを。

オオトゲルソンヒトデ 「思わせぶり」

・オオトゲルソンヒトデ Echinaster callosus - 思わせぶり

 

由来;いつもと景色が違う…。なんだか世界が落ち着きのないほど鮮やかに見える。いつもは刺々しくどこか常に敵意にみちたような雰囲気を持つあの人。今日はなにか違った。心の奥底に浮かぶ期待が大きくなってくる。今日は何かあるんじゃないかと。膨らむ期待は冷静な考えを覆い隠してしまう。しかし今日、何もおこることは無かった。明日も、来週も、その後も…。水から取り出してみてやっと気づく。大きくなりすぎた膨らみの下、縮小していく膨らみの下には、いつもの大きな棘があることにまた気づく。やっと我に返ったようだ。塩辛い夏の思い出。